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神戸地方裁判所 昭和63年(行ウ)3号 判決 1990年1月31日

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

一  本件請求の趣旨及び原告は、別紙のとおりである。

二  原告適格について

1  本件の老人病院が仮に営利を目的として開設されたとしても、ある病院で診察治療を受けるかどうかは個人の選択にかかるところであるから、そのことだけから、直ちに、同病院の近隣に居住する原告らが、同病院において科学的でかつ適正な診療を受けることができないという不利益を被るであろうとはとうてい予想することはできない。

2  医療法施行規則違反の主張については、前記病院について、具体的な同規則違反を基礎づける事実の主張を欠き、失当である。

3  医療法三〇条の七による被告の勧告は、被勧告者を法的に拘束するものではなく、被告の右勧告は、原告適格を基礎づけると解することはできない。

4  仮に、原告らが本件土地上に前記病院を建設することについて差止請求権を有するとしても、そのことは、本件処分が医療法七条三項、四項に違反することを理由とする本訴請求とは何らの関連性を有しない。

よって、原告らは、本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは認められない。

三  よって、本訴請求は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく、原告適格を欠くので却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙物件目録(省略)

別紙

請求の趣旨

一 被告が訴外未包博昭に対してなした昭和六三年一月七日付医療法七条による病院開設許可処分を取消す。

二 訴訟費用は、被告の負担とする。

請求の原因

一 行政処分

被告は、昭和六三年一月七日、訴外未包博昭医師に対し、訴外株式会社伊賀屋が別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)上に建築する予定の第二物件目録記載の建物内において老人病院を開設することを許可した(以下「本件処分」という。)

二 本件処分の違法性

1 前記病院の構造・設備は、医療法二一条、二三条に違反するので、本件処分は、同法七条三項に違反する。

2 前記病院の実態は、株式会社伊賀屋が開設・経営・支配するものであり、かつ、同会社は営利を目的とする法人であるから、結局、同病院の開設もまた営利を目的とするというほかなく、それにもかかわらず、同病院の開設を許可した本件処分は、医療法七条四項に違反する。

三 原告適格

1 原告らは、いずれも本件土地の近隣に居住する者であり、同病院で診療を受ける可能性があるところ、もし前記病院が営利を目的として開設された場合、科学的でかつ適正な診療を受けることができない。

2 医療法施行規則上の機械設備(一六条一項五号ないし七号)、汚物処理施設(同項一四号及び二〇条一〇号)、放射線関係設備(第四章)に関する規定について違反があれば、原告らの生命・身体は、社会通念上著しい障害を受けることになる。

3 被告は、兵庫県医療審議会からの「本件許可にあたつては、地方住民・地元医師会・私立病院協会西阪神支部の了承について配慮する旨勧告せよ」との答申を受けて、医療法三〇条の七に基づき、訴外未包博昭に対して、その旨勧告した。右勧告については、病院の開設者は、公法上その勧告に従う義務を負う。

4 原告らは、本件土地上に病院を建設することについて、旧住宅地造成事業に関する法律、都市計画法、土地所有権の濫用法理、事実たる慣習、原告らの土地所有権及び人格権等に基づき、その差止請求権を有している。

よって、原告らは、本訴請求の原告適格を有する。

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